コーポレートサイトの一部・もしくはそれに紐づく別WEBサイトでありながら、全く異なる役割を担う採用サイト。求職者にとって、そこはその企業への情報の扉を開ける最初の場所。私たちは、この採用サイト制作に向き合うとき、常に「企業側が伝えたいことは重要だが、それだけでは不十分」という基本方針で挑みます。「これを満たせば完璧な採用サイト」という唯一の定義など存在しないのです。企業が伝えたい情報と、求職者が本当に知りたい情報。その間には、しばしば見過ごされがちなギャップが存在します。多様な背景を持つ求職者一人ひとりが、自身のキャリアと照らし合わせながら、このサイトから何を感じ取り、どのような行動を起こすか。その複雑なプロセスを理解することから、私たちの採用サイト制作は始まります。

多くの採用サイトで見られる「お決まり」とも言えるコンテンツ群があります。「先輩紹介」「3分でわかる会社のこと」「数字で把握する会社のこと」といった項目は、いくつもの企業の採用サイトをチェックすれば、高確率で目にすると思います。では、なぜ？多くの企業が、この共通のパターンを採用するのでしょうか？それはおそらく、これらが採用サイトに必要な要素であるという、ある種の「常識」に基づいているからかもしれません。会社の雰囲気を伝え、情報をコンパクトにまとめ、客観的な指標を示す。これらは一見、求職者にとって有用な情報であるように思えます。しかし、これらのコンテンツが、採用サイトの究極の目的である「求める人材からのエントリー」に本当に有効に機能しているのか、深く掘り下げて考える必要があると思うのです。

「先輩紹介」コンテンツについては、長年多くの採用サイト制作に携わってきた経験から、採用サイトの雰囲気を出すためには無くてはならない現実を知っています。しかし、苦労して作成し、多くの先輩にご協力いただいて掲載しても、サイト全体のアクセス数の10%以下しか読まれていない、というケースが少なくありません。多忙な求職者は、限られた時間の中で複数の企業の採用サイトを比較検討し、自身に合う企業を効率的に見つけ出す必要があります。そのため、丁寧に作り込まれた先輩一人ひとりのストーリーをじっくりと読み込む「時間がない」のが実情なのです。先輩を10名並べても、最初の1名の紹介ページは少しアクセスがあっても、残りの9名のページビューは残念ながら伸び悩む傾向にあります。では、なぜ「見られていない」と分かっていても、多くの採用サイトで先輩紹介が重視されるのでしょうか？それは、求職者に対し「このサイトは採用に力を入れている」「多くの社員が活躍している」という、一種の「雰囲気作り」や「採用サイトであることの分かりやすいアピール」として機能するからです。「百聞は一見に如かず」で、先輩が多く掲載されていることは、企業サイトとの違いを明確にし、「求職者向けに整理された情報がここにある」と示す最もシンプルな方法なのです。

しかし、ここに採用サイト制作における一つの矛盾が潜んでいます。企業側は、求職者向けに意図的にセグメントし、最適化した情報を採用サイトに集約して見てほしいと考えます。ところが、情報を受け取る側の求職者は、採用サイトだけでなく、コーポレートサイト、ニュースリリース、SNS、時には社員のブログまで、インターネット上に存在するあらゆる情報源を縦断的に検索し、自身の知りたい情報を能動的に得ようとします。つまり、情報発信側がどんなに「このサイトだけ見れば十分です」と訴えても、情報受容側の求職者の方が、情報摂取をする立場としては圧倒的に上なのです。彼らは自身の判断を最も有効に生かしたいと考えています。

この求職者と企業側の間のギャップを埋め、双方にとってメリットのある状況を生み出すにはどうすれば良いか。鍵となるのは「時短」、つまり求職者が求める情報にどれだけ速やかに、効率的にたどり着けるか、という視点です。であれば、企業側が歩み寄り、「このサイトだけ見れば、貴方が企業を選ぶ上で必要な情報のエッセンスが、大体網羅的に、しかも手早く理解できますよ！」と明確に主張することが、求職者のニーズに応えることに繋がります。だからこそ、「3分でわかる会社のこと」といったコンテンツは、多くの採用サイトで採用されるのです。これは、企業の概要を短時間で掴みたいという求職者の「早わかり」ニーズに応えるものです。そして、「数字で把握する会社のこと」は、言語化しづらい企業の特色や規模感を、客観的なデータとして「見える化」し、複数企業を比較検討する際の判断材料を提供するため、多くの採用サイトで重視されるのです。

これらの要素を分解して考えると、採用サイトの構造はよりクリアになります。まず、先輩紹介など視覚的な要素で「良い雰囲気」を演出し、このサイトを見れば十分であるという「OK感」と好印象を与えます。次に、「3分でわかる」コンテンツで会社の特徴を素早くインプットさせ、同時に「数字で把握する」コンテンツで言語化しづらい情報を数値化し、求職者による他社との比較検討を容易にします。

そして、これらの情報をスマートに読んでいただいた上で、求職者が自分にとってエントリーする価値のある企業だと判断した場合に、エントリーというCVへと誘導する。つまり、採用サイトで本当に追求すべきは、「好印象」、「早わかり」、「見える化」という三つの要素であることに気づかされます。中でも、求職者が最も真剣に確認し、サイト内で最もPVが高くなる傾向にある「募集要項」ページは、雇用条件という最も具体的な「早わかり」と「見える化」の究極点と言えるでしょう。

私たちは、単なる雰囲気作りだけでなく、こうした求職者の本質的なニーズに応えるための「最も早く、分かりやすく情報を伝える工夫」が、採用サイトの制作において重視すべきポイントだと考え、日々採用サイトの設計に取り組んでいます。コーポレートサイトと採用サイト制作の違いをご理解いただき、どちらも専門的な知識を持っているWEB制作会社に価値を感じていただければ幸いです！